消防に礼式というものがある。
健康状態や士気、身だしなみは良好か上官からチェックを受ける通常点検。きれいに隊列を組ませ、角度を変えたり、行進しながら列を横から縦に変えたりといった小隊操練。辞令や賞状の受け渡しに関する物品授受…
指先の伸ばしぐあいから、つま先の角度、足を上げる高さに着地のしかた、歩幅は70センチで1分間に120歩のリズム、2歩半進んでこのタイミングで制帽を脇にはさみ受け取る、などなどこまごまと取り決められている。
消防学校時代はけっこうな時間、この練習をした。
動きが複雑なものはなかなかみんなが揃わず、どうすればよいか図を描いたりしながら夜も集まって行進してみたり、歩幅の感覚をつかもうと寮の部屋の床に70センチおきにテープを貼ってみたりした。
はじめての礼式の授業。担当の教官が号令をかける。
簡単な動作からやってみるが、うまく揃わない。
中学校なんかでも体育の時間に号令でめんどくさそうにだらだらばらばら動くことはあったが、いま我々がいるのはそんなことが許される世界ではない。
教官は言った。
「いいか、『気をつけ』は『き』が聞こえた瞬間に動け!」
「『整列休め』は『せいれーつ、やすめ』の『や』で動け!」
そうか。そうすれば号令を言い終わるときには動きは完了していて、確かにきびきび見栄えもいいはず。みんな、気をとりなおしてもう一度号令を待ち、緊張して耳をすませる。
「をつけぇっ!」
「せいれーつ…すめぇっ!」
「き」も「や」も言ってなかった。
それでもそのうちにタイミングや動作の先読みができるようになったし、気合いが入った張りのある号令は小気味よかった。
あれから数年。ここしばらく研修のため消防学校に通っていた。講義と講義のあいまに窓の外の訓練場を眺めると、入校したての学生達が小隊操練をおこなっている。
ふと自分たちの当時のことを思い出し側にいる友人に笑いながら話すと、こんな話を聞くことができた。
彼はあるとき元陸上自衛隊の人の話をきく機会があった。儀仗隊の指揮のスペシャリストだったというその人いわく、号令は言葉をはっきりと言わない方がよいのだそうだ。
話のあと近くに行って、ところで実際は号令のときなんて言ってるんですか?と尋ねてみると、
「おれは『ギュッ』って言っている。」
「ぎゅっ?」
「せいれーつ、ギュッ」
「みぎむけー、ギュッ」
これがどうやらいいらしい。
健康状態や士気、身だしなみは良好か上官からチェックを受ける通常点検。きれいに隊列を組ませ、角度を変えたり、行進しながら列を横から縦に変えたりといった小隊操練。辞令や賞状の受け渡しに関する物品授受…
指先の伸ばしぐあいから、つま先の角度、足を上げる高さに着地のしかた、歩幅は70センチで1分間に120歩のリズム、2歩半進んでこのタイミングで制帽を脇にはさみ受け取る、などなどこまごまと取り決められている。
消防学校時代はけっこうな時間、この練習をした。
動きが複雑なものはなかなかみんなが揃わず、どうすればよいか図を描いたりしながら夜も集まって行進してみたり、歩幅の感覚をつかもうと寮の部屋の床に70センチおきにテープを貼ってみたりした。
はじめての礼式の授業。担当の教官が号令をかける。
簡単な動作からやってみるが、うまく揃わない。
中学校なんかでも体育の時間に号令でめんどくさそうにだらだらばらばら動くことはあったが、いま我々がいるのはそんなことが許される世界ではない。
教官は言った。
「いいか、『気をつけ』は『き』が聞こえた瞬間に動け!」
「『整列休め』は『せいれーつ、やすめ』の『や』で動け!」
そうか。そうすれば号令を言い終わるときには動きは完了していて、確かにきびきび見栄えもいいはず。みんな、気をとりなおしてもう一度号令を待ち、緊張して耳をすませる。
「をつけぇっ!」
「せいれーつ…すめぇっ!」
「き」も「や」も言ってなかった。
それでもそのうちにタイミングや動作の先読みができるようになったし、気合いが入った張りのある号令は小気味よかった。
あれから数年。ここしばらく研修のため消防学校に通っていた。講義と講義のあいまに窓の外の訓練場を眺めると、入校したての学生達が小隊操練をおこなっている。
ふと自分たちの当時のことを思い出し側にいる友人に笑いながら話すと、こんな話を聞くことができた。
彼はあるとき元陸上自衛隊の人の話をきく機会があった。儀仗隊の指揮のスペシャリストだったというその人いわく、号令は言葉をはっきりと言わない方がよいのだそうだ。
話のあと近くに行って、ところで実際は号令のときなんて言ってるんですか?と尋ねてみると、
「おれは『ギュッ』って言っている。」
「ぎゅっ?」
「せいれーつ、ギュッ」
「みぎむけー、ギュッ」
これがどうやらいいらしい。