その日のメインの目的はバンジージャンプ制覇。
受付で料金を払い、「自ら好きこのんで自己責任でやります」といったような内容の誓約書にサインを求められる。受付をすませると、腰にはくハーネスを渡される。これでロープと身体を固定するのだ。
僕の前の順番は、七歳くらいの女の子だった。うれしそうにハーネスをつけてもらい、つけおわるのを待つのももどかしそうに、嬉々として階段をかけ登っていく。
僕も階段を登っていった。見晴らしはどんどん良くなる。すこし緊張する。
てっぺんまで登ってきて、異変が起きた。
係員の前まで来ると、その女の子は激しく抵抗したのだ。
高所への恐怖は、本能的なものだ。こんな所から飛び降りるなんて正気の沙汰ではないし、そもそも何ひとつメリットはない。彼女の判断はいたって正常だ。
地上にいる母親らしき人が説得したが、柱にしがみついて彼女は泣き叫び続ける。
なかば呆然とその様子を眺めていると、そのふいを突くように係員は僕に言った。
「どうぞ先にやっちゃってください。」
おいおい、ずいぶんと軽く言ってくれるじゃない。ここまでテンションあげてきたけど、今ので心の準備が素にもどっちゃったよ。
仕方なく係員の前に出ると、柵を閉められる。もう後戻りはできない。
深呼吸をして腹をきめる。足から飛び降りるのは怖がってそうでいやだから、両手を広げて頭から飛び降りよう。
(なに、怖いのなんてほんの一瞬だよ)
それ以上考えると飛べなくなりそうなので、思考を途中で打ち切るように行った。
身体を棒のようにして前に傾ける。
ゆっくりと逆さまに倒れていく。
足が台から離れ、宙に放たれる。
(しまっったあぁぁぁぁぁぁぁぁ)
激しく後悔した。予想外にすべてはスローモーションだったのだ。
地上に向って加速していくのがよくわかった。
地面がぐんぐん迫ってくる。
と、突然ロープが張りつめる。
「びよ~ん」と、まるで音が聞こえたかのようだった。
ロープは伸びては縮み、身体は跳ねあがっては落ちた。
あの緊迫感のあとに、ありえないまぬけさだった。
スローモーションですよ。
飛び降りなんてぜったいやめた方がいいですよ。